2022・23年度の探究ワークショップの試行授業にTAとして参加した、環境・社会理工学院 社会・人間科学コース 修士課程1年(インタビュー当時)の佐藤環さんに、参加の動機や、授業で感じたことなどをお聞きしました。佐藤さんは、本ワークショップでは、はじめに研究分野や研究方法を俯瞰する機会があり、特定の分野・方法に囚われず、「自分の問いたいこと」を考えられるのが特徴であると言います。また受講生が探究を進める際に抱えがちな困難に、TAとして丁寧に対話を重ねる姿勢を語ってもらいました。
写真は授業中の様子。以下同。
- まず、探究ワークショップのTAを引き受けられた動機を教えてください。
佐藤: 主な動機は、自分自身がリサーチ・クエッションと研究方法の関係に強く関心を持っていたからです。主に研究には、研究を通して明らかにしたいリサーチ・クエッションと、それを明らかにするための研究方法があります。研究方法には、例えば実験やインタビュー調査、文献調査など、様々な仕方がありますが、採用する方法よってリサーチ・クエッションの立て方も異なるように思います。このようにリサーチ・クエッションと研究方法は、互いに互いを規定しあっている関係にあると感じていて、興味があったのです。
- 「リサーチ・クエッションと研究方法の関係に関心がある」とのことですが、関心を持った経緯をお聞きしたいです。
佐藤: 実は私は学部から修士に進学する過程で、いわゆる「文転」しています。もともと学部は理学院の地球惑星科学系で、宇宙物理学を勉強していました。ですが、大学院の修士課程では環境・社会理工学院の社会・人間科学コースに所属しています。そこでは「地球の思想史」を学んでおり、「これまで地球がどのように考えられてきたか」について研究しています。
学部時代、実験やシミュレーションを行う研究が中心的でした。ただ私は、そうした手法を通して「宇宙や地球それ自体がどうであるか」を明らかにすることよりも、「過去の人たちが宇宙や地球をどのように考えてきたのか」について興味があることに気づき、思い切って専門を変えました。そこでは実験ではなく文献調査を行なっています。
入学当初は、研究方法といえば実験しか頭になく、別の研究方法による別の問いの立て方を知りませんでした。本ワークショップでは、はじめに研究分野や研究方法を俯瞰し、さまざまに研究方法が存在すること、またそれに基づくさまざまな問いの立て方があることを学びます。そうすることで特定の研究分野・方法に囚われることなく、自らの関心に沿いながら問いを立てられるように思いました。本ワークショップのような機会を自分も受けられていたらなと振り返ります。
- TAとして学生に関わる中で印象に残っていることはありますか。
佐藤: そうですね。先行研究を踏まえながら思考を進めていくことの難しさが印象に残っています。本ワークショップでは、日常生活の中で生まれた疑問や違和感を出発点にして、探究を行います。また学術研究ほどの網羅性は求められませんが、探究するにあたっては先行研究に当たることが求められます。
ただ「探究」を始める際に日常生活の中で生まれた疑問や違和感から出発しているためか、そのとき感じたことを起点にして、自己流の考えを展開したり、すでに自分の中で理論を練り上げている受講生も少なくありません。そうした持論は自分だけの切り口やアイデアの宝庫でもありますが、それだけでは、自分の中だけに閉じた話になってしまいます。そのように「自分」に閉じている場合、いかに「他者」に開くか、つまり他者と共有できるような先行研究を用いて探究できるかが課題になります。
- そのように自分に閉じている受講生と関わる際に、意識していたことはありますか。
佐藤: 私はその時、学生の関心と先行研究との関係を丁寧に質問するようにしています。本ワークショップでは、学生に自身の関心に近い文献を一つ選び、読んできてもらうことになっています。そして、それを元にして自分の問いをブラッシュアップさせていきます。ただ自分の中だけで考えが固まっている学生ほど、「その文献は、自分が考えたいことと違った」と反応をするように感じます。確かに関心に沿わなかったのかもしれませんが、一度は手に取って読もうと思った文献です。何かしら参考になるものがあるのでは?と思い、少しだけ立ち止まらせて「何が違ったのか」を具体的に質問しています。このように、選んだ先行研究を単に「自分の考えたいことと違う」とするのではなく、対話を通じて、その違いを丁寧に言語化することで、何かしら他者と共有できる文献の関係の中で、自分の関心を位置付けられると考えています。